センセーショナルな報道
先日、報道やネットなどで、猫からうつった感染症で福岡の60代女性が亡くなったというニュースが流れ話題となりました。
動物由来感染症とされている「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」とのことで、国内での死者の報告が初ということもあり、ニュースを見た方は大変驚かれていることと思います。人が感染すると風邪に似た症状を発症し、重症化すると呼吸困難などを引き起こす可能性があるとされています。
2018年1月10日、厚生労働省は主に公的機関に宛てた文章で、2001年から2017年11月までの期間における19例のコリネバクテリウム・ウルセランス感染症の報告を挙げています。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000190778.pdf
また、国立感染症研究所のHPでも国内での8例の発生報告が掲載されています。 https://www0.niid.go.jp/niid/bac2/Coryne_ulcerans/domestic.html このように、国内での発生報告も多数あり、死者も出ていることから、犬や猫と接する機会のある方は注意する必要があることは間違いありません。
やはり「犬や猫は怖い存在」なのか?
犬や猫、他の動物から人にうつる動物由来感染症は実は数多くあり、世界では200種類以上、日本でも60~80種類、小型動物からうつる可能性のあるものとしても30種類ほど存在します。
有名なものでは、狂犬病。他にも、猫ひっかき病(バルトネラ症)、エキノコックス症、トキソプラズマ症、オウム病など、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?最近では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)のニュースも記憶に新しいところですよね。
このように、私たちが接する動物達からうつる可能性のある感染症は多々あります。しかし、これらの感染症は昔から知られていますが、「犬や猫は病気がうつるから怖いので飼わない」「犬や猫とは接触しないように気を付けよう」とはあまり考えなかったと思います。
一番怖いものは「犬や猫の存在」ではなく、人間側の「思い込み」や「正確な情報を知らない」ということなのです。過剰に心配をしたり騒いだりすることで得をすることは何一つなく、人間と動物にとってデメリットでしかありません。
冷静な対応が必要
今回のようなセンセーショナルな報道がなされた時に重要なことは、あくまでも冷静な対応です。
報道では、どうしても注意を引くため目立つように取り上げます。死者が出たことを強調しながら野良猫の映像を流し、あたかも野良猫がすべて病原体を持っているかのような印象も与えてしまいます。そのため、動物全般に過度に恐怖を感じたりしがちです。
今回、報道されたコリネバクテリウム・ウルセランス感染症を疑う症状として、いわゆる風邪症状(クシャミ・鼻水等)や皮膚炎が挙げられていますが、慢性的な鼻炎症状やアレルギー等で難治性の皮膚炎で悩んでいる子はたくさんいますし、そのほとんどは別の原因であり人への感染の心配がないものです。
もちろん、動物由来感染症は存在しますので、「動物との適度な接し方」や「適切な衛生管理」が重要なことは言うまでもありません。厚生労働省の動物由来感染症のページにも注意点が載っていますので、参考にしていただければと思います。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000155663.html
報道が不安を煽ることで、今回話題となったコリネバクテリウム・ウルセランス感染症じゃないかと思い込み、飼育放棄されたり、虐待されたりする動物が増えないことを祈ります。
ぜひ、皆様には冷静な対応をよろしくお願いいたします。不安な点や疑問な点があれば、獣医師まで遠慮なくご相談ください。