本日は、上野で開催されたHJS(Hyper Joint Seminar)主催の外科セミナーに参加しました。講師は中島尚志先生で、テーマは「マイナーサージェリー(甲状腺・上皮小体・前立腺)」です。
甲状腺というのは喉のあたりにある臓器で、血中に甲状腺ホルモンを分泌し代謝を正常に保つ働きをします。甲状腺の手術が必要なケースとして、犬では甲状腺の腫瘍、猫では甲状腺機能亢進症(甲状腺の腺腫様過形成)があり、どちらも甲状腺切除手術が実施されます。
ところで、猫の「甲状腺機能亢進症」とは、どんな病気でしょうか?
多量の甲状腺ホルモンが分泌され、体に様々な悪影響を及ぼす病気が「甲状腺機能亢進症」です。10歳以上のシニア猫に発症しやすい疾患ですが、残念ながら原因はわかっていません。ご飯をたくさん食べたがる、痩せてくる、喉がかわく、落ち着きがなくなる、といった症状が特徴的で、胃腸症状(嘔吐や下痢)を伴うこともあります。
甲状腺機能亢進症を疑う症状や兆候がみられた場合には、血液検査(甲状腺ホルモン/T4濃度の測定)を実施して診断を確定します。
治療としては、まず内科療法(飲み薬)が選択されます。チアマゾールという甲状腺ホルモン合成阻害剤を内服しますが、治療が功を奏すると、臨床症状が軽減して体重が増加しはじめます。その後は良好な状態を維持できるように、甲状腺ホルモン濃度をモニタリングしつつ薬の量を調整します。
ここまで読まれた方は、すこし疑問に思われるかもしれません。
「で、猫の甲状腺機能亢進症は、いつ手術するの?」
本疾患において、外科手術を検討するのは
初期治療が成功した時
手術により、無病期間(内服のいらない期間)が得られます
腫大した甲状腺が触知できる時
機能亢進にある甲状腺は、ほとんどが良性の過形成により腫大します。しかし、稀に悪性の腫瘍が発生していることもあります。特に片側だけ腫大し表面が不整な場合には、悪性腫瘍が疑われるため、手術を積極的に検討します。
しかし、上記①②すべての猫に手術が適応なわけではありません。甲状腺機能亢進症を患っている猫は、心臓や腎臓の機能低下を伴っていることもあるため、手術によるメリットより全身麻酔のリスクが上回る場合もあるからです。
猫の甲状腺機能亢進症に対して外科治療を実施するために、いくらかの制限はありますが、積極的に手術を検討した方がよいケースも少なくありません。今回のセミナーでは、甲状腺摘出術に関しても詳細に学ばせていただきました。明日以降の診療に役立てていきたいと思います。